理事長のひとこと 2019年1月
2019年1月31日

「私は川のようになりたい」

町田市で行っている職員の支援力向上をめざす事例検討会で、障害があるご本人の気持ちについて理解を得られない母親への対応が話題となりました。その時にアドバイスした内容をご紹介します。

【アドバイス】

戦後間もないころの知的障害児者の入所施設の寮母(支援職員)さんの日記が紹介されている本を思い出しました。

入所施設のご利用者が寝付いた夜に、まだ水道が整備されていないため汚物(排泄物がついた下着、衣類など)を、施設の裏の小川で洗うのでした。当時の仕事の大変さがうかがわれます。その日常の中で日記に書かれていたのは「私は、汚いものをすべて洗い流してくれる、毎日毎日洗い流してくれるこの川のような寮母になりたい。」という一文でした。

汚物だけではなく、知的障害があるがゆえに被る辛さ、上手くいかないもどかしさ、孤立感と悲しみ、そしてご本人だけではなく、その家族が積み上げてきた苦しみや悔しさなどもあるのでしょう。そのようなネガティブな思いも洗い流すことが出来る川になりたいというわけです。さらに、「川になりたい」という思いには、汚い物や人が触りたくない気持ちを自分に取り込み、分解し、自然の循環に還元していく川が持つ浄化作用についても、自分がはたしたい役割として表現しているように思います。まだ職場環境も不十分な時代に、冷たい川の水で汚物を洗い流しながらも、このような気持ちを日記に書く先輩がいたことに涙が滲みました。

糸賀一雄氏の「この子らを世の光に」という本の題名は、知的障害がある方への支援から学ぶことができた「大切にしたいこと」を社会の光にしていく使命があることを伝えるメッセージとして、今も語り継がれています。まさに「川のようになりたい」は、社会に伝えるべきメッセージとして大切なものの1つなのでしょう。

今回の事例では、ご家族がわが子に「人と同じような幸せ」や、「人に認められる幸せ」を期待したくなる気持ちに至る苦労を支援者が川のように受け止めて、分解し、浄化していく作業が必要なのでしょう。そして、ご家族も自分が抱いてきた辛さを理解してくれる人が現れたと感じたのちに、ご本人にとっての幸せについての考え方が変化していく可能性が生まれていくのでしょう。

ご家族に対して「人と比べた幸せではなく、その子らしい幸せづくりを、私たちと一緒に作る努力をしていきましょう。」と伝え、理解していただける日がくることを信じて頑張りましょう。

社会福祉法人白峰福祉会
理事長 森 公男